とある地域の妖怪事典blog

下野国を中心として、怪異妖怪俗信など広く拾っていきたいと思います。地域の文化や伝承の再発見、教育のためなど広くご活用いただければと公開しました。

食用蛙の鳴き声

  食用蛙はウシガエルのこと。

 栃木市神田町で、夜な夜な牛の声に似たうめき声がする。

 男達が集まり、堀端から正体を確かめようとしていると、買いたての自転車で帰りの人が通りかかった。大勢の人がいるので何事だろうと思ってよそ見をしているうちに川に落ちた。

 男達はおそるおそる集まって来たところにザブーンという水音で驚き我先に逃げ出した。川に落ちた人を助ける人はいなかった。

 後日、牛に似た声は食用蛙とわかった。

(『栃木市史 民俗編』p752~753)

 類例として、埼玉県では1939年(昭和14年)の草加の六丁目橋に夕暮れ、ウウーッという唸り声が聞こえると評判になった。しかし、食用蛙だったという話がある( 飯倉義之「六丁目橋の怪音」小松和彦常光徹監修 香川雅信・飯倉義之編『47都道府県・妖怪伝承百科』丸善出版 2017年p99 出典は埼玉県立熊谷図書館稿本『怪談』2017年)

 さらに栃木市に近い場所の例では古河にも食用蛙がはじめて来たときには、お化けがいるなどと言われたという。「ウッー、ウッー」という鳴き声が不思議がられ、蛇が鳴くのだろうかともいわれたが食用蛙であった。(古河市史編さん委員会(民俗部会)編『古河市史資料第六集 古河の昔話と伝説』古河市教育委員会 1978年p79)

 柳田國男の「妖怪名彙」で有名になった貝吹坊は水木しげるの妖怪図鑑などでは、正体が食用蛙とされる場合もある。

 「妖怪名彙」にはそうした話はない。

 妖怪図鑑では、絵の説明文として他のエピソードを並べて書かれることも多く、貝吹き坊もそれ以外のエピソードを加えたものになっている。唐津の城の話や水木しげるの食用蛙説が並記されている。食用蛙の鳴き声も不気味なものだったのだろう。