とある地域の妖怪事典blog

下野国を中心として、怪異妖怪俗信など広く拾っていきたいと思います。地域の文化や伝承の再発見、教育のためなど広くご活用いただければと公開しました。

寺山観音寺の幽霊

 矢板市に伝わる。

 老婆が亡くなり組内のものが二人で寺山観音寺の住職に知らせにいった。地蔵坂で暗くなり、蟻が腰という所まで来ると白い着物の人が黙って二人の間を通り抜けていった。
寺につくと、住職は既に女性が亡くなったことを知っている。
驚き、なぜ知っていたのかと問うと住職は「女の仏様が出ると庫裡の流し元に来てゴトゴトして、男の仏様は本尊の方へ来てゴトゴトしているからだ」という。二人は途中で幽霊に会ったことに気づき、怖くなりその晩は寺に泊まった。
(矢板市文化財愛護協会編『やいたの昔の話』随想社p 77~78)

 栃木県もかつては葬式の知らせは二人組で行くものであった。これは全国的なもので、一人で行くと連絡を間違える心配があるということを言われる。しかし、一例をあげれば徳島県牟岐町では一人で行くと「ユキアイ」にあうという伝承も聞かれる。

「ユキアイ」は遭遇すると良くない神霊のことであろう。つまり、実利的な作用の他に信仰の側面もあった。
 誰かが亡くなったときに幽霊や魂の音がする話はたいへん多い。たとえば長野(長野県編『長野県史』民俗編 中信地方 ことばと伝承 3巻3号 長野県史刊行会 1990年 p505~507 )には本堂から音がするため和尚が誰かが死んだと察知する話が載る。
 また男女で音の場所や種類が違うという例も多い。
 秋田県での例。「タマシイは音で来るものである。「ごめんください」という声が死者に似ているもの。戸を開けた音がするが実際には開いていない。ガラガラとおひつの蓋を引きずったような音がしたり、男は鐘の音、女は柄杓で水を汲んだ音がするとも言う」( 本荘市編・発行『本荘市史 文化・民俗編』2000年 p713)のように、魂や霊は音を立てるものであった。
一方で、この話は白い着物の幽霊という視覚的な面も加わっている。

 

 

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