とある地域の妖怪事典blog

下野国を中心として、怪異妖怪俗信など広く拾っていきたいと思います。地域の文化や伝承の再発見、教育のためなど広くご活用いただければと公開しました。

青衣の大坊主(命名)

小山市に伝わる。

小山市美田だが、その本郷に薬師堂がある。この薬師堂の近くの墓地は蛍の名所である。農薬が普及しない前は、夏の夜は夜もすがら、娘や子供たちが螢狩りをしたもので、水田を渡る夜風に吹かれながら、夢のように光る虫を追うのは、楽しく美しいものであった。墓地の前には、ひとまたぎで越せるほどの水路があって、農業用水が軽い潮音を立てる。その墓地の中が殊に蛍の多い場所で、雌雄の螢が光の玉のようになって群れている。墓地に入る小橋はあるが、水路を飛び越えた方が近道で、子どもが軽がると水路を飛び越えると、その子の目の前に、三メートルばかりの僧が、青い法衣を着て立ちはだかる。螢は吹き消したように見えなくなって、うす明い夜の中に大坊主が見えるの。驚いて水路を飛び越えて逃げるのであるが、こちら岸にいる者にはただ美しい螢が見えるのみで、青衣の僧は、決して見ることはないという。(「民俗随想 忘れ柿(小山化かされの巻)」)