とある地域の妖怪事典blog

下野国を中心として、怪異妖怪俗信など広く拾っていきたいと思います。地域の文化や伝承の再発見、教育のためなど広くご活用いただければと公開しました。

天狗

南河内村町田に伝わる

昔、薬師寺の伊勢崎某家に木にのぼり岩に拳するのが猿のように上手な子がいた。よく八幡神社の境内で遊んだ。ある朝、今日は笠間(茨城、笠間稲荷、東方約三十キロ)の祭日なので今から行ってくるとその子が言う。母は朝飯までには帰れないだろう食べてから行きなさいと言う。子は必ず帰って来るからといって出かけて行った。それはちょうど母が米をにる火をつけた時であった。米がにえて朝食にしようとしている所に子は帰って来ておれは笠間まで行って来た。疲れたから朝飯を食ったら寝る。起きるまでおれのへやをのぞかないでくれといって寝間に入った。巳の時になっても起きてこない。心配になった母が遂にへやに入ってみると一人の天狗がうちわを抱いて寝ていた。 しばらくののち起きて来た我が子が母に、おれは天狗になった。姿を見られた上はこの家に住んでいるわけにはいかない。山に行く。ついては永い間世話になったからお礼にこの村にはひょうを落さないようにすることを約束する。おれが死んだ時はひょうが来るだろう。ひょうが降ったらおれが死んだと思って下さい。といってただちに出て行った。それ以降、この村にはひょうが降ったことはなかった。八幡神社の境内に天狗の投げ石という一かかえほどの石があったが今もあるかどうか。きのうのひょうは薬師寺(小字名)は被害が少ないのでまだ生きているのかもしれない。

(「村の話は生きている」)