とある地域の妖怪事典blog

下野国を中心として、怪異妖怪俗信など広く拾っていきたいと思います。地域の文化や伝承の再発見、教育のためなど広くご活用いただければと公開しました。

根なし藤

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大中寺の七不思議の一つ。
大中寺が荒れ果てていたころの話。奥州の旅の途中、通りがかった快庵禅師が話を聞くと、大平町富田の里に食人鬼が出るという。その鬼は大中寺の和尚であったが、可愛がっていた稚児が亡くなってから気がおかしくなり、里に下りては人を食うようになったという。
快庵禅師は寺に泊ったが、人を食う和尚は快庵を襲うことができず、朝を迎えた。快庵禅師は「江月照松風吹 永夜清宵何所為」の意味を求めよと和尚に言い残し、自身の青い頭巾を被せその地を去った。
 それから一年後、快庵禅師が再びその地を訪れるとか細い声で「江月照松風吹 永夜清宵何所為」と聞こえて来た。
 禅師は和尚の頭を持っていた杖で打ち砕くと、見る見るうちに白骨となり転がった。
 その骨を弔い、杖を指し「もし、この杖から芽を出し、葉を出し生い茂ることがあればこの寺は栄えるだろう」と言い残し去っていった。
 この杖が大きく育ったのが大中寺の根なし藤であると言われる。
大平町図書館編『大平町ふるさと民話 おおひら風土記』1991年 p9~11)
 この話は上田秋成の怪談『雨月物語』にある「青頭巾」が原話となった伝説だが、そちらには根なし藤は出てこない。在地化する際に出来たものと思われる。藤の前にある現地の看板には「大中寺開祖快庵妙慶禅師が鬼坊主の霊を弔う為墓標としてさした杖から成長したと言われる藤の古木 上田秋成雨月物語」青頭巾の話」と書いてある。