とある地域の妖怪事典blog

下野国を中心として、怪異妖怪俗信など広く拾っていきたいと思います。地域の文化や伝承の再発見、教育のためなど広くご活用いただければと公開しました。

オコサマ

  蚕の事を栃木県ではオコサマやオカイコサマという。

 これには由来となる昔話が伝わっており、栗山村湯西川には、次のような話がある。

 子どもができない夫婦が仔馬を飼うと娘ができた。年頃になっても娘は馬と暮らすと言って聞かない。

 仕方なく親は馬を裏の木につないで殺してしまった。

 すると娘は嘆いて、親父がはがしてきた馬の皮に泣くわ泣くわ大騒ぎであったという。その皮が動いたと思ったら、その娘を巻いて天に昇って行った。夜にはその娘が現れて「明日臼をひっくり返して出して置け。窪んだ所に小さい虫を入れておくから。それに桑を小さく刻んで与え、大事に育てろ。繭になって糸を取って売れば儲かるから」と言ったという。その通りにして江戸で高く売ることができ、村中に教え、豊かになったというものである(『民話の海』随想舎28~31頁)。

  この昔話は栃木だけではなく、各地にあり、「蚕神や馬」や「馬娘婚姻譚」と呼ばれ研究された。巫女の祭文として広まったとされる。

 柳田國男遠野物語』のオシラサマの由来などが有名である。

 また林羅山『怪談全書』にも馬の皮を剥いで庭に貼ると、にわかに風が起こり、娘を巻いて飛び去り、十日ほどで皮が再び飛んできて、桑の木にとどまり、蚕となり桑の葉を食べて糸を吐くようになったという話が乗っている。

 浄瑠璃湯殿山の本地」の六段本「湯殿山大日如来」にも取り入れられ、かつては人気のある趣向であったようだ。

参考文献 

 

今野圓輔『馬娘婚姻譚』岩崎美術社 1966年

常光徹「馬」野村純一・佐藤涼子・大島広志・常光徹編『やまかわうみ 2013年春号(七号) 総特集 昔話・伝説を知る事典』アーツアンドクラフツ 2013年