とある地域の妖怪事典blog

下野国を中心として、怪異妖怪俗信など広く拾っていきたいと思います。地域の文化や伝承の再発見、教育のためなど広くご活用いただければと公開しました。

お玉ばけもん

 大平町の新地区にある「お玉稲荷」の話

 お玉という器量の良い娘がいた。医者の所へ嫁いだが、よく思っていなかった人に、離縁されるようにとありもしない噂を流された。医者はお玉を切り殺した。お玉は「死ぬ前に髪を洗わせて下さい」と頼んだ。お玉さんは髪を洗っている所を殺されてしまった。お玉さんが殺されてからお玉さんの悪口を言いふらした人の娘がその医者に嫁いだ。しかし、医者にはその娘がお玉に見えて、怖くなって殺してしまった。

 それから村のものが雨の日に唐傘をさして歩いていると、髪を散らしたお玉さんの首が目の前に出るようになったという。

 それからお玉の霊があの世に行けず、さまよっているのだということになり、お玉稲荷として祀るようにした。また、医者は気が狂い、家は潰れた。 

 医者は二人の娘を殺すのに使った刀をゴマ畑に隠したため、この辺りでは「ゴマは作るものではない」というようになった。


 別伝にお玉なる女性が横恋慕された男性にゴマ畑で殺されたので、白ゴマをしぼると赤い血潮となって流れた、というものもある。

 下野民俗学月曜会の調査報告によると、子どもの頃にはお玉稲荷の中には血染めの手ぬぐいが入っていると脅かされたため、怖くて覗こうとはしなかったが、この場所を通りかかったときには手を合わせたということである。

 また、富田宿に遊郭があったころにはお玉稲荷に女郎が大勢お参りに来たという。

下野民俗研究会月曜会『民話の海へ とちぎの新しい民話集』随想舎 1994年p136~139)