とある地域の妖怪事典blog

下野国を中心として、怪異妖怪俗信など広く拾っていきたいと思います。地域の文化や伝承の再発見、教育のためなど広くご活用いただければと公開しました。

狐火・狐の嫁入り

南河内村町田に伝わる。

思川の鉄橋を渡って列車は大きくカーブを切ると遠く栃木の灯が見える程に直線コースに入る。列車が谷新田の踏切りを通過する頃、附近の農家の人が寄り合いでもあろうか、十七、八人いずれも白提灯を提げて線路わきの道を歩いて来るらしい。らしいというのは、人影は見えないが、提灯の明かりが見えるのである。これは線路上ではないので危険はなさそうだが、万一のために汽笛を鳴らす。ところが、汽笛の音に従って提灯の数が増す。ひと鳴きで十個はふえる。果ては七、八十個もの白い光が、レールの上一メートル程の所を、浮いて動く。不確実な白光は、見ていると肌に粟粒が立つ程、何とも云えぬ白さであった。列車が光に突っ込むと、白光は一時に消えて何事もない。 列車の汽笛を聞いた大本や小薬部落の人たちが出て見ると、線路の上に、世に云う狐の嫁入り火が浮動するのが見えたものだと、古老は語る。このことは、思川に駅が出来た後もあった。篠塚稲荷の森に住む狐たちが、夜遊びのわるさであろうか、昭和十四年頃、列車を迷わす狐火も消えて再び現れなくなった。

(「民俗随想 忘れ柿(小山化かされの巻)」)